お笑い芸人になりたい!
今の日本はお笑いが盛んです。
お笑いブームが去ったとはいえ、お笑い番組やバラエティ番組は毎日のように放送しています。
テレビをつければ芸人が映っていない時間なんてないといってもいいでしょう。
数年前にもM-1グランプリが復活してニュースになりましたね。
今流行りのYouTuberに押されてはいるものの、今でもお笑い芸人は子どもたちの夢の一つです。
ですが、一言言わせてください。
やめた方がいいです……!
「そんな言葉は聞き飽きた……?」
「いつも親に反対されている?」
「大人は何も分かっていない?」
いやいや、そういう夢を追いかけるどうこうの話をしているわけじゃないです。
この記事では15年間お笑い芸人を続けた私が、お笑い芸人の「本当に辛い真実」をお伝えします。
お笑い芸人になりたいあなたは一度読んでいただけたら嬉しいです。
自己紹介
中身に入る前に身バレしない程度に自己紹介をします。
私は芸歴が15年になる業界でいうと「そこそこの中堅」の芸人です。
最大手のよし○○ではないものの、事務所にも入っています。
テレビも月に1~2度出演していて、あとはラジオやライブ、お笑いイベントなどに出演しています。
自分で言うのはあれですが、まぁ、「そこそこ頑張っている方」です。
テレビに一度も出れずに辞めてしまう芸人の方が多いですからね。
今までたくさんの芸人が辞めていくのを見届けました。
先輩、後輩問わず。
才能がある、ないに関わらず。
芸人の大変さは入ってみないと分かりません。
もしかしたら、楽しさも。
稼げない
芸人は本当に稼げません。
よく地方のイベントで最大手よし○○の若手芸人さんが言う決まり文句があります。
「ぼくらの初めてのギャラいくらか分かりますか?」
観客は思い思いに安い金額を答えます。
ですが芸人はこう続けるんですね。
「もっと安いです」
「もっと安いです」
「もっともっと安いです!」
「答えは500円です」
だいたいここで観客の半数くらいが驚いた顔をします。
芸人は更に続けます。
「でもぼくらコンビで二人じゃないですか。これを二等分するんですよ」
「一人250円です」
これでもう少し驚く人が増えます。
で、こう続けるんですね。
「こっからきっちり10%税金もっていきますからね」
「税金引かれて一人当たり225円。これ1ステージじゃないですからね!ひと月ですからね!」
まぁここまでは本当にテンプレ。
お笑いに詳しくない人でも聞いたことある人は多いんじゃないでしょうか。
だいたい慣れている芸人はこれだけじゃウケないことを分かっています。なのでこの後こう続けます。
「それでもね、ありがたいことにぼくらも結構売れまして、月収がなんと!100倍になったんですよ!」
え?すごい!やっぱり夢がある世界だな、と観客は思うでしょう。
「22500円!」
100倍でもそんだけかい!というやつですね。
コンビニのバイトをした方がよっぽど、よっっっぽど稼げます。
この話の怖いところは、よし○○さんの給料は安いなぁということではありません。
現在、うちの事務所で『毎月22500円以上もらっている芸人はほとんどいない』ということなんです。
テレビやラジオのレギュラーがあれば、まだ可能性はあります。
毎週末、土日毎日仕事が入れば、まぁなんとかなります。
でも、皆が皆そんなに売れっ子ではないので、結局売れている芸人は稼げる。そうでない芸人はいつまで経っても貧乏、となってしまうんです。
よし○○さんのギャラは10分の1と言われています。
10000円もらったら事務所が9000円持っていくということですね。
これはおそらく他のどの事務所よりも搾り取られています。
他の事務所も、5:5だったり、7:3だったりと割合はバラバラですがまぁ10分の1ということはないでしょう。
フリーなら丸々もらえるわけですからね。
ならよし○○なんて辞めて他の事務所に入ればいいじゃないか?
確かにそうかもしれません。でもよし○○さんはその分仕事の数があるんです。
安くても、営業の数が多く、コネやパイプもある。それが最大手の強みです。
じゃあやっぱりよし○○さんが最強?
いや、一概にそうとも言い切れないんです……。
バイトに入れない
当然ですが、時給制のアルバイトで丸1日働いて1000円ということはありません。
でも、お笑いの世界だと往々にしてある話です。
また自主ライブだとギャラはもらえず、ノルマで逆にお金を払うケースも少なくありません。
しかもライブや営業がある日は当然アルバイトに入れません。
当然、それだけで生活できるはずもなく、芸人は極貧生活を強いられることになるのです。
また、テレビやラジオの収録は何カ月も前から決まっているものだけではありません。
小さいエキストラ的な出演や、当日になって急遽ピンチヒッターとして呼ばれることもあるので、アルバイトを入れているとチャンスを逃すことになります。
テレビに出たい!という強い志を持つ人ほどアルバイトを入れれず、家でただ不安と闘うことになるのです。
勿論、そうしたからといってテレビに出れる保証は一切ありません。
猿岩石で一世を風靡した有吉さんがブームが去った後仕事が一切無くなり、8年間絶望と戦いながら家でテレビを観て過ごしたという話は有名ですね。
また、芸人の世界は上下関係が厳しく、先輩に誘われた飲み会をバイトがあるからと断ることなどあってはいけません。
先輩からの急な呼び出しや、局のスタッフさんとの打ち合わせ、そして自身のネタを作る時間。
しなければならないことはとても多く、しかもそれが報われるかどうかも分かりません。
その為に、泣く泣くアルバイトを削る。
それが芸人の日常です。
人気が出ない
身も蓋もないことを言います。面白くても売れません。
事実、私の周りにも死ぬほど面白いのに全く売れない芸人はたくさんいます。
また、逆に「なんであいつが売れてるんだ」みたいに思うことも多々あります。
テレビを観ていても「自分ならこうする」「自分ならもっと上手くできる」と思う毎日です。
勿論、売れる人は何か理由があります。あるはずです。
でもそれが何なのかは誰にも分かりません。
テレビ局の偉い人も、事務所の偉い人も分かりません。
カッコよく言うなら「時代」に選ばれるかどうか。
面白いはもう大前提なんですね。
そして売れるために努力をすることはできても、「これをすれば売れる」ということは存在しません。
いくら努力をしても人気は出ない。
いくら面白くても人気は出ない。
そして人気が出ないと周りは何も評価をしてくれない。
これが芸人の世界です。
外出先で変なことをできない
テレビに出ると、次第に街中で声を掛けられることが増えていきます。
初めはとても嬉しかったです。
自分が芸能人であることを実感できるし、周りにもドヤ顔できるし。
でもそれも初めのうちだけですね。
やはりデメリットの方が大きいです。
ろくに女の子と手をつないで歩けないし、コンビニで立ち読みも出来ない、エッチな本を買うことも出来ない。
気にしなければいいのですが、気にせず生活できる人なんているのか。
人ごみの中で声を掛けられたら、お店の人から嫌な顔をされますしね。
なので、外出する時はマスクをつけるようになりました。
私ですらこうなんだから、もっと売れてる一流芸人の方々はどれだけ苦労されているやら……。
仲間がどんどん辞めていく
芸人には「辞めるタイミング」というものがあります。
大学を卒業するとき。
就職をするとき。
恋人が妊娠したとき。
子どもが生まれたとき。
親の体調が悪くなったとき。
いくら面白くても、才能があってもオーラがあっても、辞めていきます。
経験で言わせてもらうと、才能がある人ほど早く辞めていきます。
引き留めることはできません。
私も同じだから。
同じ環境で苦しんで、切磋琢磨した仲だからこそ、分かる感情があります。
私たちは、辞めるきっかけを探しています。
「売れたい」という感情の裏には「辞めたい」という感情があります。
今の生活が辛い。
この生活から脱出する方法は二つしかない。
「売れる」か。
「辞める」か。
だましだまし自分の感情に気づかないふりをして続けるうちに、
一人ひとりと先輩が辞めていく。後輩が辞めていく。
気づくと走っているのは自分だけになります。
自分より面白いあいつもあいつも辞めた。
それでも自分も信じられない未来を信じて努力を続けるしかない。
これが芸人の世界です。
自分と同じように親も歳をとる
私は今年で芸歴15年になります。
ということは芸人を始めた時から15歳歳をとりました。
ということは同じように両親も15歳歳をとったということになります。
元気だった両親がだんだんと年老いていく姿は見ていられません。
自分が立派に独り立ち出来ていないという負い目もありますから。
売れるかどうか分からない世界に身を置く以上、自分のことは仕方がないと諦めはつけられます。
でも親に対しての申し訳ない気持ちは、多かれ少なかれ抱えて生きています。
そんなこと誰も言いたがりませんけどね。
将来の不安
歳を取ればとるほど、将来の不安は増していきます。
バイトもだんだんと選択肢が狭くなり、
社員さんよりバイト歴が長くなり、
気づくと周りは年下ばかり。
まだ潰しの利く仕事ならいいですけどね。
レンタルビデオ屋なんかもう悲惨です。
同い年の友達は家を買った車を買ったが当たり前の年になっても雨の中原付で移動する。
だんだんと体も無理が利かなくなってきて、体調を崩しがちになります。
そうなるとどんどんこのままでいいのかという不安は増していきます。
趣味でも出来る
お笑い芸人にもいくつかの種類があります。
一つはお笑いだけで飯を食っている人。
一つはそうなる為に頑張ってバイトをしながら努力している人。
一つは就職して安定した収入を得ながら、趣味として芸人をしている人。
最後の中にも実は何かをきっかけに売れてやろうという野心を持っている人と、そうでない完全に趣味の人がいます。
就職をしている方が当然収入も安定しますし、社会的な風当たりも厳しくないでしょう。
実際平日のライブにバンバン出たり、テレビのオーディションをどんどん受けたりしなければ、就職しながらでもお笑いは出来てしまいます。
「いや、俺は売れるんだ!」
そう歯を食いしばって努力しても、ふいに何かで話題になってそういう人がバーンと売れてしまうことだってあります。
何度もそういった悔しい思いをしながら、ふと気づいてしまうんですね。
「あれ?就職してもお笑いって出来るじゃん」と……。
目の前のお客さんを笑わせることにプロもアマも関係ありません。
就職しても出来るんですよね。
お笑いで成功してお金が欲しい。
就職した方がお金が稼げるんですよね。
じゃあ自分を支えていたお笑いのモチベーションって一体なんなんだろう。
それに気づいてしまうと、一気に将来が真っ暗になります。
そもそも面白くない
芸人は面白いもの。
ということは面白くないと芸人ではない。
その理論でいうと、面白くない人は一生面白くないままです。
どの世界にもカリキュラムや教育体制というものは存在します。
何も分からない状態で業界に飛び込んできた新人を一人前に育て上げる制度が整っています。
ですが、お笑いの世界は教育方法が確立していません。
いくつかのルールや定石はあります。
ベタな笑いもあります。
でもそれはあくまで芸の一部分です。
基本的には全て自分で考えて、他人の芸を見て盗まなくてはいけません。
でも言ってしまえば、それが出来る人は初めから出来ます。
芸人としてデビューする前から人を笑わせています。
逆に言えばこれが出来ない人は一生出来ないままです。
誰も面白くなる方法は教えてくれないし、そもそも分かりません。
そして、「面白くない」「才能が無い」ということを本当に真摯に伝えてくれる人は、いません。
そのまま、50歳になっても、60歳になっても、面白くないまま、売れないまま、芸人を続けるのか。
この恐怖に耐えられる人はなかなかいません。
いたとしてもそれが正しいとは到底思えません。
さて、ここまで、芸人の辛いところばかり書いてきましたが、勿論そんな嫌なことばかりではありません。
というか自分自身書いてて落ち込んできました(笑)
なのでここからは芸人のメリットについて書いていこうと思います。
当たるとデカい
芸人の世界は当たるとデカいです。
それはもうめちゃくちゃ稼げます。
たけしさんが年収15億だとか
有吉さんが年収8億を超えただとか
それはもうとんでもない額の世界。
M-1で優勝したら賞金はコンビで1000万円。
事務所に持っていかれたり、税金で引かれた部分を考えても、それによって増えた仕事で翌年の年収は3000万円にも届くといいます。
また、俗にいう「一発屋」という人たちも稼いでいます。
「なんでだろ~」で一世を風靡したテツandトモさんは営業のギャラが一本100万円近く、今でも年収は1億を優に超えるといわれています。
また、芸能界で得た人脈や交渉術で会社やお店を経営し、大成功している芸人もたくさんいます。
(勿論全員が全員成功しているわけではなく、経営に手を出して失敗した芸人もたくさんいますけどね)
これは普通の会社勤めの人ではなかなか届かない世界だと思います。
一世代でここまでの富を築ける職業は、なかなか多くないのではないでしょうか。
良い女をめちゃくちゃ抱ける
初めに言わせてください。これは私の言葉ではありません!(笑)
今は芸能界を引退された島田紳助さんがよし○○の養成所の特別講師として講座をされた時の言葉です。
でもこれは確かにその通りです。
芸人はめちゃくちゃモテます。
モテようと思えば、ですけど。
私は芸風的にも顔的にもあまりそういう話からは遠ざかっていますが(笑)
それこそ見たこともないような美人を抱けます。
CAやナース、グラビアアイドルなど、交友関係も普通の会社勤めの人では知り合えないような綺麗な人と出会えます。
まぁ、だからなんだと思う人も多いでしょうが(特に女性の読者の方、すみません)、
これをモチベーションに芸人をしている人はとても多いです。
下手したらこういうよこしまな動機の芸人の方が面白かったりするから、侮れません。
チヤホヤされる
名が売れるというのはデメリットにもなるのですが、やはり街中で声を掛けられると嬉しいものです。
芸人なんて承認欲求の塊なんだから、それはそれは気持ちのいい瞬間です(笑)
会社員だと絶っっ対にあり得ないことですからね。
電車に乗っていて女子高生に声を掛けられたり、
居酒屋で隣の人に奢ってもらったり、店の人にサービスしてもらったり。
サインや握手を求めてきた人が緊張していたりすると、「おぉ、そんなに憧れの人なのか」と嬉しくなります。
他ではなかなか満たせない、有名人の特権、というやつですね。
ウケると最高に気持ちいい
ウケるというのは本当に気持ちいいです。
何よりこれに尽きます。
ライブで自分が発した言葉で、表情で、目の前のお客が笑い声をあげる。
それは1人、2人でも気持ちいいですが、それが100人単位になると笑い声は「どっ」と聞こえます。
芸人はこれを「会場がうねる」と呼んでいます。
会場が波のように揺れ、バッコンバッコンと笑い声や笑顔が自分に向かって飛んでくる快感は、もう何ものにも代えられません。
こればっかりは、体験した人でないと理解できないことでしょう。
ほんこんさんが言った言葉に全てがこめられている気がします。
「一億円貰うより一億人笑わす一言のほうが欲しいわ」
まとめ
お笑い芸人になるのはお勧めしません。
正直、お笑い芸人は職業ではありません。
事務所に所属していても、事務所が生活を保障してくれるわけでもない。
あくまでも個人事業主の扱いです。
しかも普通の人なら絶対に手を出さない、99,9%破産する、そんな劣悪なジャンルの事業です。
ギャンブルでもやっていた方がよっぽど安定するでしょう。
それでもお笑い芸人は、夢のある職業です。
というか夢しかない職業です。
生活を捨てて、安定を捨てて、何もかも捨てて、それで何が得られる?
何も得られません。
でも、もし、あなたが、それでも遮二無二前を見据えて努力を続けられたら、
生活苦も、絶望も悲しみも、全部乗り越えて、成長し続けることが出来たら、
もしかしたら、
目の前の人を笑わせることが出来るかもしれません。
それを素晴らしいと思えるかどうか。
もし素晴らしいと思えるのならば、お笑い芸人を目指してみてもよいのかもしれません。
お笑いは素晴らしいですよ。
やる側に行くか、見る側に行くかは置いておいてね。